「単焦点レンズを使うと写真がうまくなる」なんて話はよく聞く。ズームが効かない分だけ、自分の足を使って構図を作る必要があるからだとかなんだとか。ほんとに~?と疑いたくもなる話だが、知り合いのプロカメラマン数人を見てみても単焦点レンズを持っていない人なんていないし、むしろ彼らにとっての主力レンズこそ単焦点。うーむ、どう考えてもズームレンズのほうが使い勝手がいいはずなのに…。
撒き餌レンズはとっても魅力的
もちろん単焦点レンズ最大のメリットは絞り(F値)を小さくできる事。これにより多くの光りを取り込めるようになるので、暗いところでもシャッタースピードをゆっくりにしなくてよくなったり、また被写体深度が狭まるので被写体以外が大きくボケるようになる。特に後者の”ボケる”というのが大事で…なんて話はいちいちするのも馬鹿馬鹿しいレベル。
というわけでカメラメーカーは安くて写りの良い明るい単焦点レンズ、通称”撒き餌レンズ”を用意している。Canonの場合はEF50mm F1.8 STMというモデルがそれだ。
F1.8という目も覚めるような明るさを誇りながら、定価で税抜き1.95万円、実売1.4万円というとんでもない安さを誇る、まさにキングオブ撒き餌レンズ。
Nikonの場合はAF-S NIKKOR 50mm f/1.8Gというモデルが撒き餌レンズ。実売2.5万円前後でCanonに比べると高いが、むしろあっちが安すぎるのでこれぐらいの価格が妥当。
その安さにひかれてついつい買ってしまったカメラ初心者は、その圧倒的なボケ味に感動し、「2万円のレンズでこれだったら20万円、30万円するレンズはいったいどんな美しい写り方をするんだろうか…」と沼に引き込まれるって寸法だ。撒き餌レンズ、怖い。
でも50mmって焦点距離はどうなのよ
どうやら多くの撒き餌レンズに採用されている50mmという焦点距離は「人間の目の画角」に近いらしい。もちろん人間の視野角はカメラよりずっと広いのだが、50mmのレンズだと被写体との距離感が目で見たときと大体同じになるらしい。へ~それはいいな~。
…と安直に考えるのは間違い。なぜならこの話はフルサイズのカメラで撮影したときの話だからだ。僕の使っているEOS 80Dを含め、多くの一眼レフユーザーが所有しているAPC-S機はセンサーサイズが小さいため、フルサイズと比べるとCanonで1.6倍、Nikonで1.5倍ズームとなる。つまり50mmレンズはフルサイズ換算で75~80mmのレンズとなるわけだ。
実際に手持ちの標準ズームレンズの焦点距離を50mmにして撮影してみると分かるが、これは結構望遠が効いていて全然使いやすくない。特に室内だと撮影できるものにかなり制限が出てくるはず。せっかく安いのに使い勝手が悪いんじゃどうしようもない。そもそもフルサイズ機なんて高くてカメラ初心者が買う割合はほとんどないはずなのに、歴史的な経緯はさておきどうして撒き餌レンズは未だに50mmで作ってあるのか…。
APC-Sなら30~35mmレンズ
というわけでフルサイズ機を持っていないユーザーはもう少し広角なレンズを選ぶ必要がある。丁度いい焦点距離の計算方法は単純に割り算をすればいい。
- Canon:50mm÷1.6=31.25mm
- Nikon:50mm÷1.5=33.33mm
というわけでAPC-S機ユーザーであれば30~35mm位のレンズを買えば、ちょうど人間の画角ぐらいのレンズになり、使い勝手が良くなる。
NikonにはあるけどCanonにはない
さすがにカメラメーカーも馬鹿ではないのでAPC-S機でちょうどいい画角のレンズも販売している。Nikonの場合はAF-S DX NIKKOR 35mm f/1.8Gがそれにあたり、実売価格も2万円とお手頃なのでかなり手が出しやすいはず。
一方で我らがCanonは30mmを一気に下回る24mmという広角レンズをラインナップ。これもかなり安いし悪くないのだけども、F2.8であるがゆえ、「F1.8ぐらいの超明るいレンズを使ってみたい」という気持ちを満たすことはできない。Canonめ、お主はなぜちょうどいいレンズを作らないのか。
SIGMA 30mm F1.4 DC HSM | Artが気になる
Canonユーザーにとってちょうどいい画角が得られるレンズがSIGMAから販売されている。それがこのSIGMA 30mm F1.4 DC HSM | Art。
スペック
レンズ構成枚数 | 8郡9枚 |
---|---|
画角(DC) | 50.7° |
絞り羽枚数 | 9枚(円形絞り) |
最小絞り | F16 |
最短撮影距離 | 30cm |
最大撮影倍率 | 1:6.8 |
フィルターサイズ | φ62mm |
最大径×長さ | φ74.2mm×63.3mm |
質量 | 435g |
希望小売価格(税別) | 55,000円 |
実売価格 | 3.5万円前後 |
Artラインの描写力&F1.4の圧倒的な明るさを手に届きやすい価格で実現
このレンズはあらゆる設計要素を最高の光学性能と豊かな表現力に集中して開発されたSIGMA Artラインの製品。僕が持っているSIGMAのレンズは100-400mm F5-6.3 DG OS HSMで、これは使い勝手を意識したContemporaryラインのレンズだが、これでも十二分なほどに描写力が高いと感じている。それ以上の描写力っていったいなんなんだろうか…気になる。
さらに単焦点レンズならではの明るさを実現。しかも撒き餌レンズにありがちなF1.8よりもさらに明るいF1.4を実現。僕は家電量販店に置いてあるのを使ってみたことがあるのだが、被写体以外のものがとろける様にボケるのには驚愕した。これ、かなり気持ちいい。撒き餌レンズに比較すると少々高いが、「買えなくもないな」と思わせる価格設定…これはずるい。
難点は手振れ補正無し&APC-S専用
SIGMA 30mm F1.4 DC HSM | Artの難点は手振れ補正がないこと。望遠レンズなら必須ではあるが、この焦点距離のレンズに手振れ補正が必要なのか、ということは気になるが、実際僕も過去にしょうもない焦りからブレた写真を撮ってしまった経験が多数あるので、手振れ補正機能はあるに越したことがないと思っている。カメラの液晶で確認してOKだと思っても、PCの大画面で見てみたら全然ダメだったってこともあるし…。
もう一つの難点はAPC-S専用であるということ。フルサイズに装着したときには写真の周辺が暗くなってしまうことと、Canonの場合はフルサイズ機のEFマウントにEF-Sマウントのレンズを取り付けることはできないので使用できない。「いつかはフルサイズ」と思っているユーザーは避けたほうがいいかもしれない。SIGMAには35mmのフルサイズ対応レンズもあるが、こっちは値が張る。
フルサイズも考えるならTAMRON SP 35mm F/1.8 Di VC USDがお買い得
SIGMAのフルサイズ対応35mmレンズと似たようなスペックのレンズはTAMRONからも出ている。
それがこれなのだが、SIGMA 35mm F1.4 DG HSM | Artと違って手振れ補正までついていて、さらに値段も安い。F1.4ではなくF1.8だが、最短撮影距離が20cmと短いためマクロレンズ的な使い方も可能。フルサイズへの移行も考えるならこっちのレンズのほうがお買い得感は高いが、SIGMA 30mm F1.4 DC HSM | Artに比べると少し予算をあげる必要がある。
30mm手振れ補正無しを試してみる
レンズの良し悪しは別としても、とりあえずこの画角のレンズの使い勝手がどんなもんなのかは試すことができる。だって一眼レフユーザーで標準ズームレンズを持っていない人なんていないでしょう?
ってなわけでEF-S18-135mm F3.5-5.6 IS USMの焦点距離を30mmにして、手振れ補正をOFF、その状態でその辺のものを撮って歩いてみる。するとこの30mmという焦点距離がちょうど目で見たときと同じような距離感で使い勝手がいいことがよくわかる。一方で手振れ補正OFFであるということを意識し、普段よりもしっかりと脇を閉めて撮影すれば、ブレはそこまで気にならなかった。本物のレンズであればF1.4の明るさを使ってシャッタースピードを上げる事もできるので、旅先でのスナップ撮影でも案外手ブレを意識せずに使えるのではないだろうか。
レンズ沼への旅先案内人
というわけでSIGMA 30mm F1.4 DC HSM | Artがとっても気になる。30mmの単焦点レンズなのに400g越えの重量は結構なものだが、風景からスナップからブログ用の写真まで幅広く便利に使えそうな感じがプンプンしている。ただこれを買ったら間違いなくレンズ沼へと足を踏み込んだも同然と言えそうな気がして怖い。同じ画角は標準ズームでも撮れるが、圧倒的な明るさはこれじゃないと手に入らないし…でも、どんなレンズを使ったって写真は写真でしかないし…いやでも…。
コメント